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箱の中の虫

この夏、鈴虫を飼った。まずオスが死に、歌声が消えた。
死骸はメスに喰われ、しばらくメスは生き生きしていたかのように見えた。
しばらくして、メスも食欲が弱り、新しく代えた餌をかじった形跡なく、乾いていた。
小さな箱の中の変化は逐一、生の様子が透明だ。

ぴんとはった艶々の触覚も抜けた髪の毛のように水気がない
箸でつかむと、からからの重さが哀しい

これが箱でなければ、と思う
自然界にいれば、草が生い茂り、アリが喰らい、誰の人に知られることなく土に還り
夏草の生に生き代わっただろう

すべての鈴虫がいなくなった翌日、死んだ祖父のことを思った
火葬場での最後の姿を皆で囲んで遺骨を拾った時
箸でおそるおそる掴んだ時のこと
つけていた眼鏡だけは形をとどめて在ったこと

そう思い出していたのは風呂場でのことで
子どもがたたたと駆けてきて
ママーと私を呼ぶ

ママスイッチに切り替わり、慌てて風呂場を出る

きっと祖父の魂もにんまりしていることだろう
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by olzon | 2012-08-31 00:38 | - 触

臨望寺

母と東京湾の中古マンションを見に行く
晴海か豊洲辺り
新婚の貴方達には(広さが)ちょうどいいんじゃない?と母は言う
広間の様で廊下はない
畳がまた青い匂いだ
リビングの半分はこんもりと造り付けの丘を作り、さくを設け、
愛らしい女性の蝋人形を立てている
売主は、地方の寺の住職で、娘の結婚式をここでしたという
式の為にここを買い、しばらく打ち合わせスペースに使用していたが、
売ることにしたそうだ
この人形は破棄していいのかな
と私が言うと
もしかしたら破棄するなという規約があったりしてね、
だったら誰もここ買わないわよね
と雑談する

窓の外はすぐ海
マンションは水辺の中に立っている
よしずをフェンスがわりに足元に立てている
津波、大丈夫だろうか

金づちのはずの母が海に浸かり、散歩中の人と世間話している

海に対して、マンションの広場はタイル付けで明るい
マンションの子供なのか、思ったより大勢の子供達が
きゃあきゃあ走り過ぎて行く
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by olzon | 2012-08-21 17:51 | 夜の夢

子どもの距離

生まれてからしばらくは肌にぴったり
挙動を常に見ている

一年後、よたよたと歩き始めると
動きを後ろから追いかけていつでもキャッチできるように

二年後、とことこ道路にはみ出さないようにはらはらしつつ
公園でベンチに座って、手助けせずとも
すべり台を上り、滑るのを見ている

あれ、手が離れていく
と気づく

だっこ、とせがまれて面倒だ、と思うのも期限付き
だっこさせて、とせがんでもいや、とかわされる期限切れの時が来て
あの時、もっとだっこしてあげればよかったと後悔する近い未来のことが
想像できるのに、かんしゃくやわがままに頭にきて反省する
当日の昼下がりや就寝前

公園の池で、噴水の向こうから、時折、ベンチのこちらを見て
おーい、と手を振る子ども
それで、はーいとにっこり手を振り返す

遠景なのに、あなたの笑顔がよく見える

こうしてどんどん、距離が長くなり、一体どこまであの子は行くんだろう

子離れ、の未来も望遠鏡で透けて見えるように
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by olzon | 2012-08-19 17:25 | - 触

徒歩

自転車で慌てて帰る道、待っている人を迎えに行く道では、目的地しか見えていない
信号が赤か青か、車が危なくないか、重いペダルのことを考えている

ときたま徒歩で帰る道、周囲の豊かな情景に気づく
雑踏の環環音がこんなに心地よいなんて
ラジオのように聴覚が開く
何のかせもなくカバンひとつで風景を横切る

そこでもしあの子なら、どんな風にこの風景を見ているんだろうか
するとわたしから離れてふだん観察しているあの子の感性がうつる

こどもはこんな風に豊かに世界を感じているのか

自転車に乗って、無言でいて、なにを思っているんだろう
と思えば、突如数時間前のできごとを口にする

見聞きした景色に記憶が反応し、あふれたことばなんだろう

自転車の思考から徒歩の思考へ、再びレッスンを始めようと思う
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by olzon | 2012-08-10 23:40 | - 聴