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箱の中の虫

この夏、鈴虫を飼った。まずオスが死に、歌声が消えた。
死骸はメスに喰われ、しばらくメスは生き生きしていたかのように見えた。
しばらくして、メスも食欲が弱り、新しく代えた餌をかじった形跡なく、乾いていた。
小さな箱の中の変化は逐一、生の様子が透明だ。

ぴんとはった艶々の触覚も抜けた髪の毛のように水気がない
箸でつかむと、からからの重さが哀しい

これが箱でなければ、と思う
自然界にいれば、草が生い茂り、アリが喰らい、誰の人に知られることなく土に還り
夏草の生に生き代わっただろう

すべての鈴虫がいなくなった翌日、死んだ祖父のことを思った
火葬場での最後の姿を皆で囲んで遺骨を拾った時
箸でおそるおそる掴んだ時のこと
つけていた眼鏡だけは形をとどめて在ったこと

そう思い出していたのは風呂場でのことで
子どもがたたたと駆けてきて
ママーと私を呼ぶ

ママスイッチに切り替わり、慌てて風呂場を出る

きっと祖父の魂もにんまりしていることだろう
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by olzon | 2012-08-31 00:38 | - 触

子どもの距離

生まれてからしばらくは肌にぴったり
挙動を常に見ている

一年後、よたよたと歩き始めると
動きを後ろから追いかけていつでもキャッチできるように

二年後、とことこ道路にはみ出さないようにはらはらしつつ
公園でベンチに座って、手助けせずとも
すべり台を上り、滑るのを見ている

あれ、手が離れていく
と気づく

だっこ、とせがまれて面倒だ、と思うのも期限付き
だっこさせて、とせがんでもいや、とかわされる期限切れの時が来て
あの時、もっとだっこしてあげればよかったと後悔する近い未来のことが
想像できるのに、かんしゃくやわがままに頭にきて反省する
当日の昼下がりや就寝前

公園の池で、噴水の向こうから、時折、ベンチのこちらを見て
おーい、と手を振る子ども
それで、はーいとにっこり手を振り返す

遠景なのに、あなたの笑顔がよく見える

こうしてどんどん、距離が長くなり、一体どこまであの子は行くんだろう

子離れ、の未来も望遠鏡で透けて見えるように
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by olzon | 2012-08-19 17:25 | - 触

居心地

住めば都という言葉があるように、住まううちに慣れてしまうものだと思っていた。
しかし、そうでもないということに、いくつかの場所に住むうち気づいた。

例えば目的を持って上京したはよいけれど、いつしか故郷の居心地を懐かしく
思うようになり、また故郷のあそこに、変わらず住まいつづける家族が気がかりとなり、
思いは日々、揺らぎはじめ、ついにはやはり、故郷の近くへ戻っていく者は多い。

それならば突然の転勤で、何年もまったく見知らぬ土地で暮らすことになる者は
どうしているのか。

いくつか聞くところによると、土地ならではの旨い物や店、名所を訪ねるそうだ。
けれども、食や観光に興味がない者にとっては意味はないだろう。

または仕事が生活の中心で無趣味であるなら、職場と寮の往復で、
部屋に帰ってすることはアイロンをし、出来合の惣菜を買ったり、
それを食べながらTVを少し見て、あとは寝るそうだ。

しかし、これは単身者の場合であって、
世帯で越す場合はまた違う豊かな生活があるだろう。
また、近所の人間と趣味のつながりの知人ができて、根をはれるというのもある。

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けれども、一歩一歩、地面を踏みしめるたびに、違和感を覚えるということもあるのだ。

住まう駅までの道のり、駅前の光景、駅から家まで歩く通り。
通り道を変えてみるが、やはりどうもしっくりこない。
(あの道より、この道がまだまし、ということもある。)

家の扉を開け、部屋の中へ入る。
自宅こそは自身の場所であるはずなのだがこれも落ち着かない、
壁が壁として主張している。
壁は主張しているのではなく、住人が壁で仕切られた自らの空間に満足しないから、
壁が際立って見えてしまう。

ならば、窓へ近寄って外を眺めてみる。
人家のレースのカーテンが見える。
小さな畑が見える、作物はすくすく育ち、緑が濃くなっている。
または電線に止まるカラスに気づく。
くちばしを電線にこすり付けている。ほどなくして去っていく。

家の前に止まる車がある。
たいていは駐車している珍しい車種など見れば、
車を持つ人間がその集合住宅の一室にいるのだと分かる。

振り返り、わたしの部屋全体を眺めてみる。
身に着けるもの、大切にしているものを運んできたが、
連れてこられたような顔をして、置かれたままになっている。
越してきたのはずっと前である。

これも持ち主が部屋になじもうときっかけを、いつまでも探すはめになっているため、
愛着物に向ける余裕がないためだろうか。
冷蔵庫に対してまでもよそよそしいのだ!

果たして、日は一日、数日と過ぎ、住みにくい気分は日によって強くなったり、
弱くなったりしつつも、自分の場所に成りきれない感覚がいつまでも続く。

一夜だけのビジネスホテルとも、旅館ともリゾートホテルとも異なる。

魂だけがぽっと弱い明かりをつけて、
体そのものは暗くがらんどうという感触、強い違和感。
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by olzon | 2006-12-17 19:41 | - 触

THE WORLD

人の話し方で、その人の考え方、頭の中の構図、言葉をはっするまでの脳の地図
が見えるものだと思う。

まったく破綻のない話し方をするひと、非の打ち所がない完璧な論題の順序と気遣いを見せるひと、または
わずかに破綻や不条理がありつつ、話を展開させ、雰囲気とあいまってなんとなく納得させてしまう人とか。

今日はじめて、数時間一緒に移動し、話していた人の話ぶりは、印象的であった。

質問魔なのである。そして、相手の外見、身につけているものにチェックを怠らない。
それを、口に出して本人に伝えてしまうところが青いが、胸にしまわず
言い切ってしまうところも、またおかしい。

人間のいでたちでその人間の性質を見当てようとする方法であった。
あたっているところもあるが、外れているところもある。

けれども、印象のほかに、物事の構造の輪郭からものを把握しようとする
タイプの人間であった。
AとBのつながり、AとCは直接は関係ないが、いずれ関係するだろうかなどと。

同じ対象をみても、それに近づき、理解し、料理してある結論を導き出すまでの
やり方は人、それぞれだと思うが、多くの人にわかりやすく、踏襲しやすい
マニュアル的方法論がマスターできれば楽なのかもしれない。

自分はとかく、単体のアイデアによく気づくが、それをひとつの場所にあつめてきて
料理しきってしまうことが苦手である。
アイデアはアイデアのままおいておいて、素朴な状態のまま、スケッチしたいという
思いがある。対象は意味を持たず、ただ実体がそこにあるのみ、
それをどう位置づけるとかに興味がない。
残念ながら。
あがくしかないのである。
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by olzon | 2004-10-28 22:15 | - 触